ne Quittez pas 24AW Textile Story “SUN GARDENS”
2024.08.19
ne Quittez pas 24AW Textile Story “SUN GARDENS”
24AWのコレクションテーマは、SUN GARDENS。陽の光を浴びた植物のきらめきや揺らぎを追いかけて、刺繍やプリントで表現したテキスタイルの数々。インスピレーションの源となったのは、19世紀のイギリスを生きた女性、植物学者のAnna Atkinsによるサイアノタイプ(青写真)の世界。ブルーの中に浮かび上がる植物の姿から想像を広げた ne Quittez pasコレクションのストーリーをご案内します。
ブルーに揺らめく植物のフォルム
とろみのあるテキスタイルに、蔓が美しくカールを描くクレマチスのような花のプリント。植物の伸びやかなシルエットが、夜の庭のように広がる。クレマチスは、英国では「ツル性植物のクイーン」と呼ばれる花。
19世紀の英国に生きたAnna Atkinsはその美しさをどう眺めただろう。
Annaは、植物学者であり、世界で初めて、発明されたばかりの技術で植物の姿を写し取り、本にまとめたイギリス女性。日本語では「青写真」または「日光写真」と呼ばれるその写真「サイアノタイプ」は、日光に当ててフォルムを写し取り、ブルーの陰影で表現されるもの。
私たちは、ハンドスクリーンプリントや繊細な刺繍に載せて、一つひとつの植物のフォルムをテキスタイルに映し出す。ne Quittez pas 24AWコレクションでは、ブルートーンも多く採り入れながら、その世界を映し出すテキスタイルを表現した。
一筆書きのような刺繍のステッチ
ブラウスを日に透かせば、丁寧に縫製された縫い代も美しく浮かび上がる。この刺繍は、一筆書きのようにステッチを進めたミシンワークが特徴。葉をぐるぐると埋める可憐なステッチ、アウトラインだけを辿るように踊るステッチ。Anna Atkinsが切り取ったサイアノタイプの、影絵のようなシルエットをチャーミングに表現したテキスタイル。
Anna Atkinsのポジティブな情熱
東京で、屋上に落ちる植物の影。
19世紀のイギリスで、父の友人が発明したばかりの写真技術にひらめきを得て、すぐに植物を写し取ろうと取り掛かったAnna Atkins。私たちne Quittez pasが憧れたのは、その表現の美しさだけではなく、情熱のままに夢中になって、一つのことを追い求めたAnnaのポジティブな強さ。当時の英国では、まだ女性の教育もままならなかった時代。学者の父やその友人たちに恵まれたAnnaの環境はあったとしてもなお、当時、本にまでまとめ上げ、後世に残したパワフルな活動には目を見張る。
龍のように流れる緻密な刺繍
流れるような花模様。モスレーヨンと呼ばれる、苔のようにかすかな凹凸のあるやわらかな素材に、光沢のある糸で施された緻密な刺繍がそっと揺れる。ブルートーンの中に浮かび上がる花穂のシルエット。
緻密な刺繍は、身につけているとき、ふと手が触れると、とても気持ちよく肌に伝わる。それも、刺繍のテキスタイルを身につける喜びの一つ。
タフタの波間を可憐に舞う綿毛
艶のあるブルーの中に、綿毛がいくつも舞うような刺繍。綿毛の根元にシルバーの芯がキラリ。張りのあるポリエステルタフタのボリューム感は、陰影を立体的に美しく見せる。身につける高揚感を、そっと支える、綿毛の可憐なシルエットダンス。
アンティークレースのように整然と並ぶシルエット
細密なクロスステッチを重ね、ミント色のリーフ模様を標本のように並べたクラシカルな表現。アンティークレースのように端正で可憐なモチーフの組み合わせから、遠く19世紀のAnnaの時代に思いを馳せる。Annaはきっと、植物を採取しては、丁寧に感光紙に葉片を並べ、日光の下に置いたはず。いくつもの植物が並ぶさまは、どんな景色を見せていただろう。
小さな技術の集積が、新しい景色を生む
さまざまなかたちを、それぞれの質感で。艶めいた肌、可憐な表情。緻密なステッチ、素朴な筆致。
私たちのテキスタイルに込めた、小さな技術の集積が、新しい景色を生むようにと願いを込めて、一つひとつの想像を広げました。
Anna Atkinsの、女性としての人生にもオマージュを捧げて。夢を持ち、情熱を注ぎ、自分が夢中になれることに従う、彼女の強さと逞しさが、柔らかな表現の中に健やかに伸びていきます。現代を生きる私たちも、その精神を感じながら、自分らしく、しなやかに、生きていきたい、と思います。
Direction & Text: Yuko Mori
Photography: Daehyun Im